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第2章 小鳥と始まる日常 3/3

last update 最終更新日: 2025-04-03 18:00:50

「さ……流石に買いすぎだろ……」

 ここに越してきた時でも、ここまで買い物をした記憶はないぞ。

 そう思いながら悠人が鍵を開けようとした時、ドアの隙間に挿してある一枚の紙に気付いた。

 宅配便の不在表で、家に入り連絡すると、15分ほどして業者が荷物を持ってきた。荷物はダンボール二箱と、細長く厳重に梱包された筒状の箱だった。

 ダンボールには小鳥の服、その他もろもろの日用品が入っていた。

「女子にしては少ない荷物だな。まぁ3ヶ月だからこんな物か……で、これは何なんだ?」

「ふっふーん、これはね」

 そう言って小鳥が筒状の梱包を外していくと、中から三脚と望遠鏡が出てきた。

「結構高そうなやつだな」

「これは小鳥がバイトしまくって買った宝物。悠兄ちゃんの天使の次に大切なものなんだ。悠兄ちゃんと一緒に星が見たかったから、これは持っていこうって決めてたんだ。でもね、そのつもりだったんだけど……

 ここって星、ほとんど見えないんだね」

「昔はもう少し見えてたんだけどな、街が明るくなりすぎたから。過疎ってきてるとはいえ、これでも都会なんだよな。

 ま、3ヶ月ここにいるんだから、そのうち山にでも連れていってやるよ」

「楽しみにしてるね。でも悠兄ちゃん、春先でこんなんだったら、夏なんて見える星ないんじゃない?」

「間違いなく見えるのは、月ぐらいかな」

 その言葉に反応した小鳥が、

「月って言えば……」

 そう言ってダンボールの中に手を入れ、冊子のような物を取り出した。

「じゃーん!」

「だから……じゃーんなんて擬音、リアルで口にするやつはいないぞ……ってこれ」

 それは月の土地権利証書だった。

「お前、月の土地持ってたのか」

「悠兄ちゃん、ここここ。ここ見てよ」

 小鳥が指差すそこは権利者の欄だった。そこには悠人の名前が記載されていた。

「俺の土地なのか?」

「悠兄ちゃん、小鳥に約束してくれたでしょ? 大きくなったら小鳥と結婚して、月で一緒に暮らしてあげるって。だから小鳥、未来の旦那様の名義で買ったんだ」

「なんとまぁ、5歳の時の約束をしっかり覚えていたとはな。ちょっと待ってろ」

 悠人は笑って立ち上がり、洋間に入っていった。ごそごそと音がしてしばらくすると、小鳥が手にしているのと同じものを持ってきた。

「ほら」

「え……?」

 悠人が開いたその権利証書には、小鳥の名前が記載されていた。

「悠兄ちゃん……」

「なかなか面白いイベントになったな」

 そう言って悠人が笑った。

「……」

 悠兄ちゃんも約束、覚えていてくれたんだ。

 小鳥の胸が熱くなった。

「ではお互い、贈呈式を」

 悠人がそう言って小鳥に権利証書を渡す。

「……ありがとう、悠兄ちゃん」

 権利証書を抱きしめる小鳥。そして小さく肩を震わせた。

 その小鳥の頭を、悠人の大きな手が包み込む。

 あたたかい感触。あの時と同じ、忘れたことのないぬくもり。

「悠兄ちゃん!」

 小鳥は悠人に抱きつき、胸に顔を埋めた。

「甘えん坊なところは、あの頃のまんまだな」

 そう言って、悠人が小さく笑った。

 その後服を片付ける為、悠人は洋間に小鳥を入れた。

 四畳半の洋間の扉を開けると、目の前の壁一面に黒い本棚が並び、アニメと映画のDVD・ブルーレイが所狭しと並べられていた。

「すごいね、この部屋」

「ま、二軍だけどな。一軍は和室にいてるやつら。とにかくここはほとんど使ってないから、好きに使っていいよ」

 生活臭のしない部屋。おそらくここは、悠人にとって倉庫なんだろう。そう小鳥は思った。

 しかし見事に整理されており、掃除も行き届いていた。その几帳面さに小鳥は驚いた。

 向かいの壁には黒の三段ラックが五つ並んでいた。その上に飾られているフィギュアを見て、小鳥がはっとした。

 それは悠人手作りの、小百合と小鳥のフィギュアだった。

 手をつないで歩いているもの、ブランコの小鳥を押している小百合。そしてベンチに座る小百合の膝で眠る小鳥。

「手慰めって言うか……まぁ楽しかった思い出を残しておきたかったんで……な」

 照れくさそうに悠人が笑う。小鳥は両手を口に当ててつぶやいた。

「小鳥とお母さんの……大切な思い出だ……」

 夕食を終え、洗い物を一緒に済ませると、

「風呂、先に入っとけよ」

 ジャージに着替えた悠人がそう言った。

「悠兄ちゃん、どこか行くの?」

「日課のウオーキングだよ。昨日はバタバタして出来なかったけど、基本毎日一時間ぐらい歩いてるんだ」

「小鳥も連れてって!」

 小鳥が洋間に入り、同じくジャージに着替えて現れた。

 悠人はいつも入浴前に、マンションから見下ろせる川の堤防沿いを、1時間ほどウオーキングしていた。1年間で休日を30日と決め、雨や体調不良だった時を考慮して、年の前半はなるべく休みなく歩くようにしていた。

 堤防沿いを悠人と小鳥が歩く。かれこれ3年も続けているので、結構なスピードで歩いているのだが、そのペースに小鳥も続いていた。

 驚いたのは、小鳥の息がほとんどあがっていないことだった。さすが中学時代、陸上部部長だっただけのことはあるな。そう思い感心した。

 小鳥が空を見上げると、雲ひとつない天気なのにも関わらず、ほとんど星が見えなかった。

「本当に星が見えないね」

「そうだな。条件がよくてもこの辺じゃ、冬に1等星が2~3個見えるのが関の山だからな。オリオン座すらまともに見えないよ」

「じゃあ夏なんか、ほんとに見えないよね」

「ああ」

「小鳥の家からだと満天の星空。でもここだと、その星が全然見えない……宇宙には無数の星があって、間違いなくその光が届いてるはずなのに、この場所からはそれが見えない。

 小鳥たちからしたら、それは存在してないのと一緒たって話、悠兄ちゃんは知ってる?」

「聞いたことぐらいはあるけど……星がある事実は変わらないだろ」

「……見る人がいなかったら存在しないんだ、って言う人もいるんだ。でね、その話を聞いた時に思ったことがあるの。

 もしこの世から、小鳥を知る人が一人もいなくなってしまったら。小鳥はここにいないのと同じになっちゃうのかなって」

 小鳥がうつむき、小声でそうつぶやく。歩く速度も心なしか落ちていた。

「……お前、小百合と同じで頭いいんだな。で、頭いい分、俺らバカが悩まないことで悩む」

「……」

「大丈夫だよ」

「え……?」

「どこにいたってお前のこと、俺がいつも思ってるから。今までもそうだっただろ?」

「悠兄ちゃん……」

「誰がお前のことを忘れても、俺だけは覚えてる。だから大丈夫だ」

 そう言って悠人が、小鳥の頭に手をやり荒々しく撫でた。

「うん……えへっ」

「いや、だから……『えへっ』も普通口にする言葉じゃないから」

 小鳥が洋間で、丸テーブルの上にノートを広げていた。中には、小鳥が悠人と叶えたい望みが書かれてあった。

『月の土地のプレゼント』の項に今日の日付、そして赤で花丸をつける。願いが叶ったら花丸をつけていくルールだった。

「今日はたくさん花丸をつけられるな」

 嬉しそうに笑いながら、小鳥が他の項目にも花丸をつけていく。

『一緒に買い物』

『手作りハンバーグでうまいと言わせてみせる』

 そして最後の項目には『悠兄ちゃんと結婚』、そう書かれていた。

 悠人が寝る前の煙草をくわえ、白い息を吐きながら考えていた。

 明日一日で、小鳥が生活出来るように用意しとかないと。とりあえず起きたらまず、「ジェルイヴ」の鑑賞会。

 小鳥がヲタクになるとは、小百合も誤算だったろうに。

 そこまで思って悠人の脳裏に、もう一人身近で知っているヲタクの顔が浮かんだ。

「……そういや明日の夜、弥生〈やよい〉ちゃんが帰ってくるんだったっけ……小鳥のこと、どう説明するかな……」

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